冬の尾道ぶらぶら記

今年の1月、お仕事で関わった映画『犬王』が、「第8回尾道映画祭2025」にお呼ばれしました。
2022年公開の作品なのに、ありがたいことに今でもいろんなスクリーンでかけていただく機会が多くて……かっこよすぎる、さすが犬王くん!
配信もありますので未見のかたはぜひ▼
わが地元・広島にはときどき帰省してますが、尾道は10年以上前に行ったきりだな~と思い、この機会に半分仕事のような・半分遊びのような感じで現地に飛びました。映画祭のお手伝いを予定よりガチってしまいw 遊べたのは一日半だったのですが、それがとてもいい時間だったので、「冬の瀬戸内はいいぞ!」を主張したく、旅行記を書きます。
アーケード商店街のスポーツカーと地だこ天
金曜日の夕方、仕事を早めに切り上げて羽田空港から広島空港に飛びました。ちなみに広島空港は広島市民から見るとスカイライナーと成田エクスプレスが通っていない成田空港みたいな感じなので、都内から広島市内に旅行でいらっしゃる方には激しくおすすめしません!
「広島まで新幹線4時間?長っ」と思われるかもしれませんが、都内各駅から広島駅までのドアツードアで考えると結局所要時間はそう変わらないので、新幹線が真剣におすすめです。
ただ例外があって、広島県東部の西条・竹原・尾道あたりにいらっしゃるのであれば、そう不便でもないです(ディズニー目的なら成田でもいいかも、的な)。ふだんの帰省は新幹線なので、私も約20年ぶり?くらいに空港を利用しました。
バスからJRに乗り換えて尾道駅に着き、がらがらとキャリーを引いて海沿いの宿まで移動します。途中めぼしい居酒屋でもあったらご飯食べて行こうかな~と思えどぴんと来るお店がなく、そのままチェックイン。荷物を置いて、あらかじめ当たりをつけたアーケード街の飲み屋さんをめざします。
時刻はまもなく22時。路地からアーケード街に入ると、当然お店のシャッターは閉じて商店街はシンとしています……と、突然目の前にばり車高の低い、ピッカピカに磨き上げられた白い車が出現しました。えっ何で?
「ぉわ……」とのけぞったら後ろから「あ、スミマセーン!」と声が。振り向くと、20mくらい先に若い男の子の2人組、いかついカメラを手に地面に座りこんでました。愛車の撮影会だった。

縁石こすったら憤死しそう
夜更けにシャッターが降りた商店街に文字通り燦然と輝く白いスポーツカー……きっと頑張ってお金を貯めて買ったのね……とエモい気持ちになり、自分も写真を撮らせてもらいました。去り際「かっけーすね!」と声を掛けたら「あざぁす!!」と元気に返ってきました。

もう絶対おいしい「本日の一品」
尾道の若者にエモさをもらいつつさらに5分ほど歩くと、アーケード街の外れにめざすお店はありました。薄暗い店内に入ると「フード終わっちゃってて、バーメニューでもいいですか?」とのこと。メニューが減るのは残念だけど時間も時間だし、お店もいい雰囲気だったので快諾してカウンターに着席します。
が、あまりに物欲しそうにメニューを眺めていたせいか(?)「やっぱ通常メニューもできますんで、何でも言ってください!」とマスター。お言葉に甘えて地だこの天ぷらや和牛の炙り、それから瀬戸内レモンの生レモンサワー、広島の地酒「誠鏡」などをいただきます。すべてがちょうどよくおいしい……。ほかにも気になるメニューがいろいろあったので、次は人を誘ってきたい。
少し遅れてもうおひと方、女性のひとり客がカウンターにやってきました。マスターもまじえて少しお話したところ、広島市内からいらした映画祭のお客さんとのこと。今夜は浄泉寺で行われたUAのライブを観てきたところで、明日は『PERFECT DAYS』の役所広司さん舞台挨拶チケットを押さえているとか。しっかり誘客していますね、尾道映画祭さん。
向島で高見山ハイクとPerfumeのお好み焼き
翌土曜日は青空と瀬戸内海が気持ちのいい快晴! 午前中は尾道水道を隔てたお隣の向島にある高見山という低山ハイクの予定だったので、私にしては朝早めに部屋を出て、商店街のレンタサイクルで電動ミニベロを借り出し、パン屋さんで朝ごはんを買います。
向島⇔尾道間は渡し船が通っています。大林宣彦監督の映画をご覧になったことがある方は、登場人物たちが通学などに小さな船で水道を行き来しているのを記憶しているのでは?ちなみにこの渡し船、アーケード街側と駅側にひとつずつあるのですが、駅側の「福本フェリー」はこの3月いっぱいで廃止が決定しているとのこと。風情があって素敵なのですが、維持費など大変なんでしょうね。。
所要時間5分で大人100円、自転車10円。対岸にいる船が戻ってくるのを待ちつつ、乗り場で朝ごはんを食べます。瀬戸内の青が目を通してなみなみと体内にまで流れ込んでくるようで、この時間だけでなんて豊かなご褒美か! 冬の瀬戸内、気候もいいし最高。

地方に行くと地元の牛乳が飲みたくなる現象
やってきた渡し船に乗り込み、ミニベロを走らせます。めざすは登山口のある向島洋ランセンター。道も広いし山裾までは平地なので、気持ちいのいいサイクリングとなりました。しまなみ海道サイクリングが世界的に人気なのも頷けます。
登山口から山頂までは40分ほどの行程。道もよく整備されていて、迷うことなくがんがん高度を上げていきます。展望台へは車でも上がっていける仕様ですが、海を見ながら少しずつ標高を稼ぐのがたのしい。動きやすい服装なら、普段登山をしない方でもスニーカーで登れる強度ですよ。

たどり着いた山頂から、さらに展望台に上がった絶景がこちら。瀬戸内海の縮緬のようにこまかな波模様、それをやわらかく裂いてゆく船の航跡、雲の陰と島々の影。どれだけ見ていても飽きません。
世界中どこに行ってもそれぞれに海はうつくしいけれど、この多島美とやわかい光の組み合わせだけは、ほんとうに世界中どう探しても瀬戸内海だけの唯一無二の美だと、尾道に来るたびに思います。
30分ほど山頂でぼーっとして、正直まだ1時間でも2時間でも見ていられる気持ちでしたが、午後の稼働に備えて下山してお昼を食べて、一回宿に帰ってシャワーを浴びて着替えてまたお化粧をせねば……ということで、後ろ髪を引かれながら下山します。

春潮や 和寇の子孫 汝と我
帰路は「瀬戸のうたみち」と銘打たれた、さまざまな詩歌の碑をめぐるルートで。興味深い碑がいろいろあってつい足が止まります。「先祖が平家」と「先祖が村上水軍」はある意味、瀬戸内海のあるあるネタみたいなところがありますが、松山市出身の高浜虚子が愛媛の町長に「おれもおまえも元をたどれば倭寇の子孫じゃーん」という句を送っていて、高浜虚子はホモソーシャルが上手いな……。歴史に裏打ちされたヤンチャ感のある兄弟宣言に、町長もきっとぐっときたことでしょう。

わさわさのお花が贅沢に直売されています
ミニベロを置いた洋ランセンターまで戻ってきました。せっかくなのでセンター内でお花をお買い上げ。滞在中お部屋に飾ろう(サムネイルとトップに掲載した画像がそれです)。
せっかくなのでお昼も向島で食べていこうとお好み焼き屋さんを検索したら、ロケでPerfumeも訪れた(!)という触れ込みのお店がヒットしました。おかみさんが一人で切り盛りされており、店内に入ると中央に鉄板が一台、お客さんはその周囲を囲むように丸椅子で座ります。壁にはPerfumeのポスターやグッズが飾られ、聖地巡礼スポットになっているよう。
広島風お好み焼きの焼き上がり(正確に言えば、実質は「蒸し上がり」)には結構時間がかかるので、その間はおかみさんの淀みないトークがたのしめます。広島市内のグリーンアリーナにコンサートを観にいった話、ラジオでPerfumeが自分に言及してくれた話から、最近の通院事情まで……。
すべての材料は鉄板の前に立ったまま手に取れる範囲で、裏の厨房と繋がる小さな棚に収められています。おかみさんのお喋りの途中も手が止まることはなく、鉄板の上に油がひかれ、生地がひかれ、野菜が盛られ、麺が焼かれ、豚バラスライスが乗せられる、その滑らかな手つきといったら! もうこれ無形文化財なんじゃないかと思うんですよね。

寝ててもできるんじゃないん?というなめらかさ
昔、東北で生まれ育った恋人(当時)と帰省したときに入ったお好み焼き屋さんで、生地の上にこんもりと盛られたキャベツの山を見て、彼が「あれが最終的にどういう形態になって出てくるのか、今ほんとに予想がついてない……」とこぼしたのを思い出します。
広島風お好み焼きは言うまでもなく世界一おいしくキャベツを食べる料理なわけですが(大前提)、広島に来ることがあったらぜひ、「思ったより時間かかるな?」という時間、キャベツが目の前で甘く蒸されていくあのじりじりとした時間を、鉄板の前で体験してほしいです。
まぁおいしすぎて、待つ時間の割に食べるのは一瞬なんですけど。さくっとお会計を済ませて、ミニベロでホテルへの帰路につきました。
尾道映画祭と瀬戸内レモンサワー
午後からは着替えて現場へ。大林監督の長女・大林千茱萸さんのトークショーで列整理をしたり、『i ai』のトークに登壇されるマヒトゥ・ザ・ピーポー監督と森山未來さんのアテンドをしたり、なんだかんだ走り回っている内にあっという間に一日が終わりました。『i ai』もほんとは本編観たかった……! またの上映の機会を待ちます。
この夜も生レモンサワーで自分を慰労します。レモンがおいしいから、当然レモンサワーもしみるようにおいしい。

練りもの大好き
明けた日曜日はいよいよ映画祭最終日、そして『犬王』の上映日です。会場となったしまなみ交流館のホールはキャパ690席が満杯! コンサートなども行われているホールなので音響がとてもよくて、犬王の歌声も友有座の演奏も気持ちよく響きまくっていました。
いつも全国いろんな会場に駆けつけてくださる、犬王グッズや世界観ファッションを身に纏ったファンの皆さんの姿を見るのも、何回目でも新鮮に、震えるほどうれしいです。


#尾道映画祭
今回、湯浅政明監督と一緒に登壇いただいた総作画監督の亀田祥倫さんは尾道のご出身。上映のあとは尾道市立大学の学生さんたちとの懇親会も行われました。地元から映画界で大活躍してる先輩の姿を直接見て、お話聞けたらめちゃくちゃうれしいし、励みになるよなぁ……。

「竜中将」について図説してくれる亀田さん
尾道という特別な街だからこそ、街の記憶と映画の記憶がいろんなところでリンクしていて、地元の方々がそれを大切に継ぎつつ広げようとしていかれている姿勢を、随所に感じられた映画祭でした。
尾道映画祭はラインナップもいいし、尾道の街はコンパクトななかに風光明媚と美酒佳肴がぎゅぎゅっと詰まっているし、ぽかぽか陽気の冬は避寒にもなるので、来年の開催にあたってはぜひ皆さまおいでくださいませ。
おまけ
帰りは飛行機ではなくて新幹線にしました。なぜって? 世界一おいしい唐揚げ弁当こと広島市民のソウルフード「若鶏むすび」で有名な「むすびのむさし」が、福山駅でも買えるようになったからです!
そのほか、本記事に登場したお店・お宿のリンクは以下よりどうぞ。冬の瀬戸内はいいよ。