批評とは、スタンスをとること

「給料日ラジオ」リアルイベント: 24年よかったものSP の御礼と、考えたこと
arimayoco 2025.02.06
誰でも

2/1(土)、ライターの青柳美帆子さんと毎月やっているツイキャス「ありまよとアオヤギの給料日ラジオ」のリアルイベント「2024年よかったものスペシャル」をLoft9 Shibuyaさんで開催しました!
ゲストはライター/アナーカフェミニストの高島鈴さん、ドラマウォッチャーの明日菜子さんの2名。

毎回晴れてくれるのがとってもうれしい土曜日の昼下がり

毎回晴れてくれるのがとってもうれしい土曜日の昼下がり

当日のタイムテーブルです

当日のタイムテーブルです

昨年に続き、50名ほどの方々が現地に足を運んでくださり、さらに今年は配信チケットも発売したので、配信でご覧くださった方もたくさんいらっしゃいました。ありがとうございます!

昨年多かった「その場でおすすめされた本を買いたい」というご要望に応えるため、芳林堂書店外商部さんにご協力いただきまして物販スペースも展開しました。皆さんがたくさんの本を買っていってくださったことも、感謝感激としか言いようがありません。来年以降は「若者向けのU-25チケット価格を新設する」あと「託児サービスを入れる」あたりにもチャレンジしたいな~!

なお、配信のアーカイブは2/15(土)23:59まで購入・視聴が可能です。3時間にも及ぶイベント本編がたのしめるほか、視聴期限終了後には、当日会場で投影した登壇者のおすすめ作品が掲載された30ページ超のスライド資料と、参加者の皆さんのおすすめ作品が掲載された200タイトル超のリストをデータでお送りします。小説・マンガ・アニメ・映画・舞台などジャンル問わずエンタメ好きの方、「今年はたくさんインプットしたいな~」という方にとっては、はっきり言ってこれだけでも2,000円の価値はある資料だと思ってますので、エンタメ好きの皆さんはぜひチェックしてみてください。

当日の感想は、XやBlueskyでハッシュタグ「#給料日ラジオ」をご覧いただけたら。

すべての感想はもれなく飛び上がるほどうれしく、エゴサ即いいね後RTしてしまうのですが、なかでもこのつぶやきには、手が止まってしまいました。

思わず応答したポストはこちら。

私は学部生時代にそれこそ小説・マンガ・アニメ・映画・舞台などジャンルを問わない(というか、横断した)批評を学び、以来批評が大好きです。昔東浩紀さんが、なにかの講演で「批評とは、快楽の回路をひらくものだ」というようなことをおっしゃっていて。つまり批評を読むことで、それまで意味がわからなかった作品・おもしろさがわからなかった作品に対して、「こう見ればよかったのか!」という「読み方」が、まるで天啓のように付与されることが、たしかにある。その瞬間の快楽といったらもう、頭ぱっかーん! ユリイカーーーッッッ!!! って感じです。

「給料日ラジオ」は「中年女2人が、給料が入って気分がいいので、毎月25日前後に最近はやってる作品やはまってる作品の話をするよ」というコンセプトのツイキャス(Webラジオ、最近ぽい言い方をすればPodcast)。2018年10月の初回放送以来、7年目に突入しています。私もアオヤギさんも(ラジオ名の通り)週5フルタイムの会社員として固定給をもらいながら、毎月×12か月×7年も配信し続けてるのって改めて考えるとすごい&えらいな~と思うのですが、これだけ長く続けられているのは、ひとえに「違う意見の人と同じ作品について語るのは、とてもおもしろいから」。そして「それを聴くのもまた、とてもおもしろいから」だと思うんです。手前味噌ですけど。

ありまよとアオヤギは「女性ジェンダーのオタク」という点では共通してますが、年齢も長女と末っ子くらいは離れているし、洋画と舞台と男性アイドルは私の方が、女性向けマンガとミステリと女性アイドルはアオヤギさんの方が詳しかったり、実は絶妙に「得意ジャンル」は異なります。それが互いの「視点の違い」を生んでいて、毎月やっても飽きないくらいおもしろい作品語りにつながってるのかな、と自己分析したりもしています。

そう、私は作品批評がやりたくて、作品批評が聴きたくて給料日ラジオをやってるんですよね。批評、最近は考察に押され気味ですけど、たったひとつの正解のような「制作者の意図」を読み取ろうと腐心するのが「考察」だとしたら、投げ出された作品そのものから妥当性のある、かつ作品の快楽の回路をひらくような読み方を提示するのが「批評」だと考えています。

ラジオをお聴きの皆さんはご存知だと思うのですが、私は作品の話をするとき、制作者のインタビューなどに言及することはあまりありません。それは作者を作品の上位には置いていないから(学部時代の自分の語彙で言うと、テクスト論ってやつです)。作者という上位存在の意図に沿って出力されたのが作品……ではなくて、寧ろ書かれるべきテーマ・作品の方が、適した作者を要請して書かせてるんちゃう~? みたいな世界観でいるんですよね。(その世界観でも、読み方に「たったひとつの正解」はなくても「誤読」はありえるので、「妥当性のある」という点は依然大事なんですけど。)

そう考えると、ますます批評ってこわくておもしろい。めざす到達点が「たったひとつの正解のような作者の意図」だったら、発信者によってアウトプットはそうぶれないはずなんです。けど前掲のツイートにもあるように、ありまよとアオヤギの意見も読み方も、実は作品によっては結構違います。アオヤギさんが年間ベストに選んだ作品を、私が「絶対許せない作品」カウントしていることもあるし(今回のイベントでもそんな場面がありました)、その逆もまた然り。なぜなら、「読み」はその人がこれまで触れてきた作品、経てきた経験、かけられてきた言葉や育ってきた環境によっても、千差万別のバリエーションを生むから(念能力か?)。妥当性の低い誤読を徹底的に廃しても、です。

ということは、「すべての読みを網羅的に提示する」ことは、原理的にはかなり難しい。するとどうなるか? 暫定的にも、「(少なくとも現時点での)私はこの作品をこう読みました」という、スタンスをとる必要が出てきます。って言葉にするのは簡単だけど、態度として実践するのはかなり難しい。世界には自分より頭がいい人、教養がある人、オタク度の高い人なんてごまんといるし、SNSで可視化されきってます。それでもスタンスがとれるかどうかは、ほとんど勇気の領域です。(平成のビジネス語風に言うと、「キメの問題」ってやつです。)

だから私はスタンスをとっている人が好きだし、スタンスをとっている人は誰であれ尊敬するし、お互いにスタンスがとれてさえいれば、実は「読み方の違い」「意見の違い」なんて、大した差異じゃないじゃーんと思っています。結果、給料日ラジオでは意見の相違や、相手の読み方に対する批判的な見地があっても、「なるほど、あなたはそう読んだのね! その視点を私の読みに加味するとどうなるかな……」と、ふむふむと聞くことができますし、そこで会話が終わることなく、寧ろ発展していくグルーヴ感がおもしろい。

今回、ゲストにお呼びした高島鈴さんは、ひりつくほどかっこよく、スタンスをとっている方です。ご著書の『布団の中から蜂起せよ』は、タイトルを読んだだけの人にも著者のスタンスが伝わる、しかもリーダビリティが高い本です(今回もイベントで物販したかったけど、取り寄せができなかった……! )。未読の方は、お近くの書店さんやネットでぜひ探してみてください。

ポップな発信のイメージがあるドラマウォッチャーの明日菜子さんのことは、直接お会いする前から信頼しています。Twitterに書かれたbioの一文が、「好きも嫌いも理由を書きます」だったから。 明日菜子さんのやっていることは紛うことなき批評なので、いつか週刊フジテレビ「批評」にも出てほしい……と言っている間に、フジテレビの方がたいへんなことになってしまったけど……。

批評は「考察」じゃないし、批評は「論破」でもない。もっともっと自由で、対象作品や会話相手に対するリスペクトがないとできなくて、でも頭がくらくらするほどおもしろいのが批評なんですよ。

ラジオやイベントの感想で一番うれしいのは、「もう一度同じ作品を/もっとたくさんいろんな作品を見たいと思った」と言われることと「もっと自分もアウトプットしていこうと思った」というものです。どんどんやろ! 皆スタンスとってこ! なぜなら私自身が誰よりも強欲に、もっといろんな読みの可能性を知りたいから!

「とはいえ、読み方の提示ってどうやるの?」という方は、ぜひアーカイブをご覧になってみてください。自由で、リスペクトがあって、かつ何度も笑っちゃうほどおもしろい3時間がここにあります。これからも引き続き、そんな時間や空間を作っていきたいです。

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