「純文学っぽさ」との闘い 芥川賞候補全作レビュー #芥川直木全読予想
夏だ! #芥川直木全読予想 だ! ということで今年もこの季節がやってまいりました。今週末7/12(日)に文芸評論家の三宅香帆さんと忖度なし・アーカイブなしの生配信一本勝負! をスペースで開催します。お時間が少し変更になりまして、17:00→18:00に後ろ倒しになります。ぜひスペース通知予約してお待ちください~。

x.com/i/spaces/1nJOL…Scheduled: #芥川賞直木賞全部読んで予想する三宅香帆’s Space · Where live audio conversations happenx.com
今期について語る前に、直木賞に引き続き、前回1月のスペースで話した内容を記事にまとめたいと思います。

★直木賞
有田:『神都の証人』
三宅:『カフェーの帰り道』
★芥川賞
有田:「時の家」
三宅:「BOXBOXBOXBOX」
でした!どれか当たるかな~?
▼前々回の記事はこちら
神戸作家の系譜『時の家』
青年は描く。その家の床を、柱を、天井を、タイルを、壁を、そこに刻まれた記憶を。目を凝らせば無数の細部が浮かび、手をかざせば塗り重ねられた厚みが胸を突く。幾層にも重なる存在の名残りを愛おしむように編み上げた、新鋭による飛躍作。
家に宿った記憶が、代変わってゆく家主の暮らしを静かに語り出す……というところで、最初に連想したのは保坂和志『カンバセイション・ピース』でした。『カンバセイション・ピース』ほどは長くないからさらっと読めて、しかし家のハード面に関する書き込みがしっかりしているので、無理なく情景が頭に浮かびます。
これは前提として自分の採点が甘くなっている自覚があるのですが、私は「家もの」の小説がそもそも好きなんですよね。暇さえあれば不動産サイトを眺めているような人間だから……。という贔屓目は差し引いても、細部の書き込みが丁寧で、新人離れした達者な書き手だと感じました。著者本人が実際に建築士とのことで、ラストの解体シーンの容赦なさなど「本業ならではのプロ感」が漂っており、いいぞ……!
作品の舞台が神戸なのですが(と震災関連の描写でわかる)、筆致が平易で、リーダブルなんだけどどこか静謐な品があって……という、「神戸作家」の系譜ってありませんか? 田辺聖子とか木皿泉とか、最近だと松永K三蔵さんも同じ箱に入っています。これ、関東の人には伝わりにくいのを承知で一言でいうと、なんかシュッとしてる。
途中、家の解体を惜しみながらも見守る主人公が、自身を「それなりにいい仕事をしてる」と書いてたりするので、「だったら家を買い取って新オーナーになれやーい!」と思わなくもないですが、そんなドライさまでも含めて、なんかシュッとしてる。
今回のありまよ最推し作品です&受賞おめでとうございます!
リアリズムじゃダメ?『へび』
以前に『海岸通り』(大好き!)でも候補になっていた坂崎かおるさんの新作です。受賞しなかったので単行本化されておりません……(悲しい)。よって公式のあらすじもないのですが簡単に説明すると、妻が「人形」になってしまい、発達障害の息子を一人で育てる父を、息子のお気に入りのぬいぐるみである特殊繊維の「へび」の視点で語る二人称小説、です。
小5になった息子が担任のすすめで野球を始め、そこからはじまる怒涛の送り迎え! 家事! 保護者たちとの付き合い! もちろん通級の先生や医師との面談も続いていて……。
候補作品のなかでは最も登場人物にリアリティがあり、たのしんで読めました。が、だからこそこれ、『海岸通り』同様のリアリズム小説じゃだめだったのだろうか? という点が終始気になりました。
坂崎さんは「日常生活のリズミカルな活写」と「繊細な感情描写」をどちらも破綻なく両立させることができる稀有な書き手なので、シンプルに「子どもの少年野球に振り回されるシングルファーザーw/へび、presented by 二人称」というだけで十分におもしろい。
反面、ちぎっても水をつけるだけで修復される特殊繊維、人形になった妻、などの文学的な仕掛けがあまりうまく機能しているように思えなくて、かえって感情移入の妨げになっているようにも感じました。
でもすごく好きな小説です! 「文學界」は毎号Kindle化もされているので、子どもの習い事で白目になっている保護者の方などに、ぜひ読んでみてほしい一作です。
『BOXBOXBOXBOX』完成度が高いからこそ、もう一声!
薄霧のたちこめる宅配所。粛々とはたらく作業員たちのあいだで、レーンに流れてくる無数の荷物を仕分ける安(あん)。一日中ほどんど誰とも口をきかず、箱の中身を妄想することで単調な労働をやり過ごすうちに、箱の中身と妄想の「答え合わせ」をしたいという欲望が安を蝕んでいく。あるとき思いもよらない理由から、決して開けることの許されない箱の中身を覗きみることに成功すると、たしかにあったはずの箱が次々と消えていくようになってーー。
三宅さんの推し作です。タイトルからわかるように、狙いが明確で主題もぶれていない、非常に完成度の高い小説。特に単純労働(やそれを管理する労働)が人の心身をどう蝕んでいくのかの経緯には迫力があり、「霧」によってもたらされる適度なファンタジー感もとてもよかったです。



