主題をしぼることの難しさ 直木賞候補全作レビュー #芥川直木全読予想
毎年1月と7月は、芥川直木賞全部読んで予想するスペース、略して有田三宅賞を文芸評論家の三宅香帆さんと配信しております。
因縁の両賞該当作なしだった前回からも早半年……でレビューを書こうとしたまま忘れていました(忘れるなよ)。今回も力作揃い、だけどありみやの全体的な点数は辛めだった1月の直木賞を改めて振り返るよ!
受賞予想は下記2作品で、三宅ちゃんが的中させました。
★直木賞
有田:『神都の証人』
三宅:『カフェーの帰り道』
どういうプロセスでこれらの作品推しに行き着いたのか? 振り返りレビューです。
▼前回の記事はこちら
忖度なしのガチ批評! アーカイブなし生配信一発勝負 #芥川直木全読予想 スペース は今回もやります! 7/12(日)17:00より。アーカイブしません、生配信のみなので、ぜひご予定を空けてお待ちください。

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意欲的だが主軸が見えにくい『神都の商人』
昭和18年。戦時下、「神都」と称される伊勢で、弁護士の吾妻太一は苦悩していた。官憲による人権侵害がはびこり、司法は死んだも同然。弁護士は正業にあらずと、子どもたちにさえ蔑まれていた。だが、一人の少女・波子との出会いが、吾妻の運命を変える。彼女の父は、一家惨殺事件で死刑判決を受けた囚人だった。「お父ちゃんを助けて」波子の訴えを受け、吾妻は究極の手段に打って出る。無罪の証拠を得るため、自らも犯罪者として裁かれる覚悟をして――。だがそれは、長い戦いの始まりに過ぎなかった。
評価が高かったものから、ということで私の推し作品は『神都の証人』でした。
数十年、数世代がかりでの冤罪晴らしというとても意欲的なテーマの本作。お木挽き、渡鹿野島など三重県ならではの題材もうまく本筋と絡められていて、地方エンタメ小説としてもしっかり楽しむことができました。
ただ、連作中編スタイルで主人公が次々と変わるのもあり、なにが作品の主軸なのかが最後まで見えにくいように思いました。「本当に冤罪なのか、だとしたら誰が殺人事件の真犯人なのか」という縦線の謎がありつつ、ミステリが主軸とも思えない。冤罪をめぐる人間ドラマと家族愛が主題なら、囚人の娘・波子目線の方がよいであろうし、「時代に翻弄されながらも法とどう向き合うか」のリーガルドラマなのであれば、太一主役で平成から始めた方が読みやすかったようにも。
道具立ても登場人物も魅力的だからこそ、どこにカメラを置いて何にフォーカスするかの狙いがやや絞り切れていないように感じられたのが残念でした。でも5作中もっとも読み応えがあった! 力作です。
むずいことをさらっとやってのける『カフェーの帰り道』
東京・上野の片隅にある、あまり流行(はや)っていない「カフェー西行」。食堂や喫茶も兼ねた近隣住民の憩いの場には、客をもてなす個性豊かな女給がいた。竹久夢二風の化粧で注目を集めるタイ子、小説修業が上手くいかず焦るセイ、嘘つきだが面倒見のいい美登里を、大胆な嘘で驚かせる年上の新米・園子。彼女たちは「西行」で朗らかに働き、それぞれの道を見つけて去って行ったが……。大正から昭和にかけ、女給として働いた“百年前のわたしたちの物語”。
三宅ちゃんの推し作品です! 私もとても好きな小説でした。#芥川直木全読予想 的には『襷がけの二人』の嶋津輝さんですね。前作に引き続き、シンプルな設定にリーダビリティの高い文体で、さり気なくさくっと読めるのですが、考えるほどにこれは結構高度なことをやってのけているぞ……という印象が強く残りました。
『神都の証人』同様の連作短編スタイルですが、各編の視点人物の切り替えによって生じる、語り手が持っている情報のギャップが作劇に巧みに生かされています。Aさんから見たBさんはこういう人だけど、Cさんの解釈はちょっと違っていて……という狭い職場での人間模様が、戦争を挟んだ街の変化とともに綴られます。「時代に翻弄される人々を描く」には、このくらい潔く舞台を限定した方が、かえって経年の厚みが描けるのかも。
あと登場する男の人が皆、妙に魅力的なのもよかった。男も女も愛嬌があって、「こんな人、いるかも」「ちょっと好きかも」「幸せになってほしいかも…」と思わせる、派手さはないがたしかな佳品です。三宅ちゃんが「よるドラっぽい」と評していて納得。遠からず映像化もしそうです。
続いての3作品は、やや辛口なので有料ゾーンにて!
思い浮かぶライバルが強すぎる『女王様の電話番』

好きだけど、触れあうことはできない。そんな自分は異端者なのだろうか──。
主人公の志川は、新卒で就職した不動産会社を辞め、現在、SMの女王様をデリバリーするお店の電話番をしている。友達には「そんな職業は辞めたら?」と眉をひそめられたが、女王様の中でも美織さんという最高に素敵な人に出会い、そこそこ幸せに暮らしていた。ある日、あこがれの美織さんと初めてごはんを食べに行く約束をして舞い上がるものの、当日にドタキャン。そのまま音信不通になってしまう。彼女の常連のお客さんなどにこっそり連絡を取り行方を探るうちに、どうも自分の知っている美織さんとは違う面ばかりが見えてきて……。
突然音信普通になったバイト先の女王様。彼女はなぜ姿を消したのか? いわゆる「ゴーンガール」ものですが、それにしては全体のサスペンスが甘く感じます。小説『ゴーンガール』や『傲慢と善良』あと最近ではマンガ「パーフェクト・グリッター」などの類似作を連想すると、どうしてもライバルが強すぎる!



