「美人の辛さ」と既視感のある地獄

もう女の人が「美人」と叩かれるのを見るのも、「ブス」と叩かれるのを見るのも、どっちもうんざりだ。
arimayoco 2021.05.04
誰でも

(この記事は、2019/03/03 にnoteに掲載した記事の転載です)

ありまよとアオヤギの給料日ラジオというネットラジオを、月に一度ペースで配信しています。内容は、「給料日が来て機嫌のいいアラサー女2人が、毎月決まったお題のコンテンツについて、あと最近ハマってるものや、今月インターネット上で起こった痛ましい話について語り合う。ついでに会社員のすばらしさを世の中に発信する」というもの。昨年の10月に始めて2月末で既に5回もやっているのだが、毎回何らかの配信トラブルによってアワアワと始まる羽目に陥る辺りから、私とアオヤギさんの計画性のなさが透けることを除いては、基本たのしいラジオです。

そこで、2月の「インターネット痛ましい話」は、「美人は辛いよ」(とまとめられてしまった)ツイートで炎上した、某スタートアップの女性役員(以下、Aさんとします)について話しました。そして翌朝、起きたらAさんのTwitterアカウントは削除されていました。

「『女である』というだけで、見も知らぬ第三者からここまで容姿についてジャッジされないといけないのか」と、最初に怖気を感じた瞬間を私は結構明確に覚えていて、大学時代の友人がとある賞を受賞したときです。もう10年近く前になると思いますが、「あの子、賞取ったらしいよ!」と人づてに聞いてネットを検索すると、授賞式の様子を写した報道写真へのリンクが貼られた某巨大掲示板で、「美人だな」「ブスじゃん」「チェンジ」「いやノーチェンジ」と、もはや見慣れたやりとりが展開されていました。

しかし、過去に100万回くらい見てきたはずの、スルーし飽きたはずのやりとりも、リアルの知人が対象になった瞬間、めちゃくちゃ生々しく迫ってきて、まるで自分がそう言われているみたいにショックを受けました。ああ、日本のインターネットでは、「フツメン」にあたる概念が若い女子には存在しないんだなーと、頭を殴られるような思いがしたのを覚えています。

わたしにとってその子は、「色白で、肌が綺麗で、いつも丁寧にお化粧してる可愛い子」という認識だったのですが、1枚の写真が人によっては美人に見えたり、ブスに見えたり、意見が分かれるのだとしたら、それはもう「普通」ということでいいではないか……。なぜ、執拗に「美人」か「ブス」かの二元論として「議論」されるのか? その構造自体を、余すことなく燃やさなければなりますまい。

男女問わず、「誰が、いつ、どう見ても美人な人」というのは、大抵プロの芸能人とかになってるんだから、一般人が美人かブスかの議論なんて、もう「コンディションによる」でよくないですか? これもあまり良い言葉ではないけど、仮に「顔面偏差値」という客観的な指標があったとして、一般人のそれは大体35~65くらいのあいだで定まらないものだと思うのです。誰でも、「プレッシャーのかかりまくる仕事に忙殺されて二徹して疲れ切った帰り道に地下鉄の窓に映った顔」はびっくりするほどブスだし、誰でも、「人生に一度の晴れの結婚式にプロにヘアメイクしてもらってプロに撮ってもらったウェディング写真」は目を見張るほど美人じゃないですか? 私も、あなたも。だって、芸能人じゃないんだからさ。

ラジオで本件について話したとき、わたしは今回の騒動への感想として、「こういう人を救えなくて、何がフェミニズムだって思う」と述べました。言及するにあたって、Aさんの過去のツイートには、すべて目を通しました。毎回、文字数ぎりぎりぎっちりと長文で、そっけなく感じるほどにぽんぽんとテンポよく書かれたつぶやき群を見て、きっとすごくまじめで、頑張り屋さんで、どっちかというと「かわいげがない」とか言われるタイプの優等生だったんじゃないかなと、勝手に推察していました。彼女が綴る「美人の辛さ」は、今までにも「まじめなで美人な女友達」から何度も聞かされたことのある、既視感のある地獄でした。自分が「美人」の側じゃないからって、「調子に乗ってる」とか「自虐風自慢」だとは、到底思えない内容でした

私はAさんに、「まだ10代のあなたに手紙を渡してきた男教師が200%悪くて、あなたは何も悪くないよ」って言ってあげたかった。「誰もあなたの容姿をジャッジする権利なんてないんだよ」と言ってあげたかったし、「あなたみたいな人の味方をしてくれる、『あなたは悪くない』と教えてくれる学問があるんだよ、それがフェミニズムなんだよ」と言いたい。

今回の件で私は二段階で傷付いたしむかついていて、第一には、Aさんに投げかけられた心無いリプライの数々に対して。第二には、彼女がアカウントを消した後に、普段はリベラルな顔をしてバリキャリフェミ風のツイートをしている女の人たちが、「炎上マーケティングは難しい」とか、「GSまで行った美人でもこういう辛い目に遭うのか」とか、涼しい視点でつぶやいていたことに対して、です。何で皆平気なの?

私は、もう、女の人が美人と言われて叩かれるのを見るのも、ブスと言われて叩かれるのを見るのも、どっちもうんざりだ。皆そんな暇があったら、世界一好きな顔の話とかしててほしい。でも、「日本で女子をやってる」ってだけで、同じ構造、同じ視線の中に私もいます。直接的にも間接的にも、美人って言われたりブスって言われたりすることはあるし、それに対して、喜んでみせたり傷付いたりしないといけない。でももう2019年なんだから、本当はそのどっちも、心からお断りしたい。

10年前、巨大掲示板で「チェンジ」と言われたのは私だ。今週、「炎上狙いだったとしても、自称して許されるほどの美人ではなかったなw」と揶揄されたのも私だ。今回たまたま「この私」じゃなかっただけで、「彼ら」は、ほんとうは誰だっていいし、どんな容姿の人に対してだって、ひょっとしたら「誰が、いつ、どう見ても美人な人」に対してだって、同じことを言うのだ。自分の容姿を棚上げにして。その構造自体を、余すことなく燃やさなければなりますまい。

Aさんは、女の子のお母さんでもあるという。娘さんたちがお母さんみたいな目に遭わなくて済む日本に、一日も早くなってほしい。

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