言語化は人のためならず

自己把握のための言語化、他者に伝えるための言語化
arimayoco 2025.05.06
誰でも

メインで使うSNSをXからBlueskyに変えたことで、とりにいく情報の質ががらっと変わったので快適な今日この頃なのですが(Blueskyにいる人、よかったらフォローしてね!)、それでもまだまだXに「圧倒的に人が多いことの優位性」はあるので、たまに覗いてしまいます。

自分が特に優位性を感じるのは、「この内容、去年ならここまでネガティブな反応じゃなかっただろうけど、いまはアウトなんだな」とか、「なんだか最近この言葉がよく使われているな/最近使われなくなったな」という、言葉の流行や潮目のうつりかわりが感じられる点です。

そういう「漠然とした世の中の流れ」に翻弄されないためにもSNSは見すぎない方がいい、という考え方もあるでしょうが、「人が今どういうことを考えているのか」に常に興味津々な自分は好奇心が勝ちます(あと仕事柄、ある種の危機管理広報能力を常に磨き続けなければならないという気持ちもある)。

で、最近気になってるのが、「言語化」という言葉の受け取られ方。なんだか今年に入った頃から揺り戻しがきたのか、「言語化ってそんなに大事?」「言語化できない領域にこそ寧ろ豊かさがあるのでは」といった発信を、ちらほら目にするようになりました。

手前味噌ながら不肖私、終わりのないテーマについて延々と考えたり本を読んだり人と喋ったりするのが大好きで、まぁ得意な方なので、時には問われた質問に答えただけで親しい友人らから「言語化ゴリラ」だとか「事実陳列罪」だとか「真実の剣を振うスフィンクス」だとか不名誉にあだ名されるくらいには、言語化好きキャラとして生きております。まぁそれゆえにこんなニュースレターでつらつら考えたことをわざわざ全世界に発信してもいるわけなんだけれども、人の言語化を読んだり聞いたりするのも大好き!

常日頃、皆もっと自分の気持ちを言語化してほしい(そしてあわよくば私にも教えてほしい)と思っているので、今日は「言語化」の肩を持つ文章を書いてみます。

最初に結論から言ってしまうと(言語化好き人間にありがちな手法)、この記事のタイトル「言語化は人のためならず」がすべてなんですけど。「言語化」ってそもそも2つのレイヤーがあると思うんです。「自分の感情や考えを他者に伝える」という表のレイヤーと、その下ではたらく「その手前で自分の感情や考えを自分自身で把握する」というレイヤー。そして、前者ではなく後者にこそ、「言語化」の本質があるのでは? と思うのですよね。

「他者に伝えるための言語化」が持て囃されたり、ビジネス文脈で必要な能力として提示されるのは、まぁわかります(いわゆる「言語化能力」というやつですね)。いまバックラッシュ的に「推されすぎじゃない?」とされているのも、主にはこの表の意味での「言語化」なのではないでしょうか。でもそこで「言語化ってそんなに必要?」と言われると、その下にかくれた「自己把握のための言語化」が世界にはまだまだ足りないのでは!? と思っている身としては「言語化を悪者にするのはまだ早いよ~」という気持ちになってしまう。

言語化好き人間あるあるとして、人からなんかモジャっとした気持ちや悩みについて相談を受けること、がよくあります。似たような相談をいろんな人から聞いているとその中から傾向が見えてきて、それがさらに精度の高い言語化につながることもあります。わかりやすく実例を出すと、「キャリアを積むにはどうしたらいいですか?」というモジャっとした悩みに対する返答を、以下の記事にまとめたことがあります。

「キャリアを積みたい」という耳障りのいい言葉を使ってる内は悩みは解決しないから、それは「給料が上がる」ことなのか「役職が上がる」ことなのか「独立できる」ことなのか「社内で好きな仕事をできる」ことなのか「その分野で名前が売れる」ことなのかはたまたそのミックスなのか、ミックスだとしたら何%と何%のミックスなのか考えてみたらいいかも、という話です。

先に「自己把握のための言語化」と書きました。これをさらに詳細に「言語化」すると、「耳障りのいい言葉の引力に逆らい、より自分の直感に近い言葉に、ブレイクダウンして置き換える」能力のことを、私は「言語化能力」と呼んでいます。それはできないよりはできた方がいいし、できすぎて悪いことはひとつもないし、それによって失われるものって別にないのでは……と思うのですが、いかがでしょう。(その内容をどこまで他者に伝えるか/伝えないかはさらに先のステップであって、伝えるも伝えないも当人の自由ですからね。)

もちろん、世界のすべてを言語化できるとは思っていませんし、「言語化し得ない豊かな領域」というのは、何にでも存在するでしょう。でも、「言語化し得ない豊かな領域」には、言語化の精度を高めて高めて高めて……それでもここから先は今の自分には無理! という方法でしか、アプローチし得なくないか? とも思うのですよね。(これは私の頭の作りが言語優位すぎるからもあると思うのですが……)

だから、何かに悩んでいる人がいたり、どうしたらもっと言語化できるようになりますか?と問われたら、「このトピックについて、いっぱい考えたり本を読んだり人とは話したりするといいのでは!?」と答えてしまう自分がいます。

逆に、もしも「言語化をつきつめていく」以外に、「言語化し得ない豊かな領域」にタッチする方法をご存知の方がいたら、ぜひ教えてほしい……! なにか事象の本質をつかむためのアプローチはきっとさまざまなはず。でも「言語化」はその中でもとっかかりやすく、やればやるほど精度が上がっていきやすい領域なので、やっぱり皆、もっと自分の気持ちを言語化してほしいなと、言語化大好き人間は思うのでした。

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