#芥川直木全読予想 第172回(24年下半期)レビュー:直木賞編
年に2回のおたのしみ、「芥川賞直木賞候補作を全部読んで予想するスペース」振り返りレビュー、直木賞編です! 芥川賞編はこちら▼
名工による特産品『藍を継ぐ海』
なんとかウミガメの卵を孵化させ、自力で育てようとする徳島の中学生の女の子。老いた父親のために隕石を拾った場所を偽る北海道の身重の女性。山口の島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男――。人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。
今回、満場(=ありたとみやけの2人)一致で「一番よかった!」となった作品が伊与原新『藍を継ぐ海』でした。一作目が山口県見島を舞台にした、萩焼(に用いられる土)の話だったので、てっきり「著者が山口出身なのかな?」と思いつつ読んでいたのです。そのくらい、風土に対する目くばせが細やかで、描写も丁寧だったから。
ところがですよ。読み進めると次々と舞台は変わり、奈良県東吉野村、北海道遠軽町、長崎県長与町、徳島県美波町をそれぞれ舞台にした短編集でした。国内旅行クラスタなら、この5自治体の並びを見ただけで「渋いとこ突いてきますね!?」となるのではないでしょうか?(私はなりました!)そしてどの作品も、その土地特有の気候風土、天体や動植物や伝承などを巧みに物語に織り込んだ、それこそ時間も手間もかかる名工の特産品のような仕上がりなのです。この解像度の高さと多彩さを両立した短編集はなかなかない! 唸らされました。
舞台になった各地で、書店員さんが推しやすいのもいいなと思いました。大納得の受賞です。
全社会議で激詰め!『秘色の契り』
徳島藩を二分する家臣団の対立が勃発する。新藩主として第十代藩主・蜂須賀重喜を迎え、気鋭の中老たちは、藩政改革と藍玉の流通を取り戻そうと闘い始めた…。ところが、新藩主はあまりにも斬新な改革案を打ち出した!特産品の「藍」は借財に苦しむ藩を救うのか?
こちらも「藍」つながり、徳島が舞台の作品。一推しは先述した『藍を継ぐ海』だったのですが三宅ちゃんの予想に入ってきましたので、同じものを選んでもなぁ……と有田予想はこちらの作品にしました。結果受賞ならず、でしたがキャラクターが魅力的で、徳島の方四国の方以外にも広く読まれてほしい作品です。
逼迫した藩政をどうにかしようと若き新藩主を担ぎ上げた中堅家臣たち、しかしこの新藩主・蜂須賀重喜が何かにつけロジカルな説明を求める&展開してくるベンチャー起業家みたいなキャラで。私が帯のキャッチコピーをつけるなら「全社会議で激詰め!」にします。激詰め全社会を覗き見たい人はぜひ。
成熟のはて『よむよむかたる』
小樽の古民家カフェ「喫茶シトロン」には今日も老人たちが集まる。月に一度の読書会〈坂の途中で本を読む会〉は今年で20年目を迎える。最年長92歳、最年少78歳、平均年齢85歳の超高齢読書サークル。それぞれに人の話を聞かないから予定は決まらないし、連絡は一度だけで伝わることもない。持病の一つや二つは当たり前で、毎月集まれていることが奇跡的でもある。